陰極材料の原子レベル仕事関数制御実現のための検討を行い以下のことが明らかになった。 (a)原子レベル修飾 超音速メタン分子線の並進エネルギーに応じて、Pt(111)表面にエチルダイン基、炭化水素及びグラファイトの単原子層を析出させることに成功した。次に、Cs修飾Pt(111)表面での超音速メタン分子の解離反応を解析した結果、0.06MLのCs吸着により活性化障壁が200meV以上増大し、反応が強く抑制されることが明らかになった。並進エネルギーによる反応制御の可能性が示された。 (b)原子レベルでの仕事関数計測 各種分子吸着表面を用いた検討から、走査型トンネル顕微鏡(STM)応用ミクロ仕事関数分布計測における問題点を明らかにした。また、Cs吸着表面における計測から、Cs吸着は、吸着原子位置で電気双極子を形成するだけでなく、その周りの広い範囲で仕事関数を変化させることを明らかにした。さらに、非接触原子間力顕微鏡を応用した定量性の高いミクロ仕事関数計測法にて、京大グループの作製した遷移金属窒化物、炭化物を計測し、作製法によってミクロ仕事関数分布が大きく異なることを示した。 (c)分子線装置とSTMの結合 超音速分子線装置とSTMの複合装置を開発した。STM計測に加えHe原子線散乱によって吸着炭素のまわりの清浄表面において仕事関数低下に伴う電子密度の沁みだし拡大を確認した。また、比較的低い並進エネルギーのメタン分子線では、Pt表面の一部が反応生成物で覆われるだけで反応が停止するが、並進エネルギー表面垂直成分を500meVまで高めた分子線では、表面全体が単原子層グラファイトで完全に覆われることを見いだした。さらに並進エネルギーを高めることで原子配置まで揃うことが確認された。分子線を用いた表面物性高精度制御の可能性が示された。
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