Wntは心臓の発生早期において重要な役割をはたしていると考えられているが、心筋分化の際にWntシグナルがどのように関与しているのかは十分明らかにされていない。そこで、本研究ではP19CL6細胞を用いて心筋分化におけるWntの役割を調べた。P19CL6細胞をDMSOで心筋細胞へ分化誘導させるとcanonical WntのメンバーであるWnt-3aとWnt-8が一過性に発現することが確認された。P19CL6細胞にWnt-3aだけを一過性に強制発現させても心筋特異的転写因子の発現が誘導され、拍動する心筋細胞への分化が認められた。しかしcanonical Wntのシグナルを持続的に刺激すると、心筋特異的転写因子の発現の増加は抑制され拍動する心筋細胞への分化はみられなくなった。これらの結果からWntシグナルは心筋分化に対し、発現の時期や持続時間によりpositiveにもnegativeにも作用している可能性が示唆された。今後は心筋分化においてWntシグナルに関連する分子を解明し、遺伝子導入により非心筋細胞を心筋細胞に分化誘導させるための方法を探索する。 最近、成人幹細胞の可塑性の機序として分化転換(transdifferentiation)や細胞融合(cell fusion)の存在が報告されている。我々は心筋細胞が他のさまざまな体細胞と融合するのか、またその後の形質はどうなるのか検討した。心筋細胞を血管内皮細胞、心筋線維芽細胞、骨髄細胞、内皮前駆細胞と共培養した結果、それぞれ自発的に細胞融合し心筋細胞の形質を獲得した。内皮細胞や線維芽細胞で発現する蛋白質の発現量は減少することから、心筋細胞の形質が優位になることが示唆された。また融合した細胞は細胞周期に入ることが示された。これらの現象はin vivoのモデルでも確認された。これらの概念は心不全の細胞治療にも役立つと思われる。
|