研究概要 |
gp130を介する情報伝達系の中で中心的役割を果たしていると考えられるJAK/STAT系に注目し、これまでに心臓においてこの系が高発現または発現抑制、あるいは持続活性を示すマウスを作製し、解析を行ってきた。この過程においてSTAT3が心筋細胞においてbcl-xL,MnSODをはじめとしたさまざまな細胞保護遺伝子の発現を増強し、またVEGFの発現を介して血管密度を増加させリモデリングに関与することを明らかにした。本年度はこれらのマウスを用い心筋梗塞を作製し、梗塞後のリモデリングや心不全の発症につき検討を行い、虚血性心筋病態におけるSTATの意義を明らかにした。constitutively activated STAT3(caSTAT3)を、α-myosin heavy chain geneプロモーターに連結したトランスジェニックマウス(TG)を用い虚血再灌流傷害につきwild-typeマウス(WT)と比較検討した。マウス心臓左冠動脈を60分間結紮後再灌流し、梗塞領域や心筋細胞アポトーシス、活性酸素の産生等につき検討を加えた。まず、LIFの虚血再灌流傷害に対する保護効果を検討したところ、LIFの前投与は虚血再灌流後の梗塞領域を優位に減少させた。次にcaSTAT3TGを用いて検討を行った。caSTAT3TG心臓において、AKTおよびERKの活性は増強されていないことを確認した。caSTAT3TGにおいて、梗塞領域およびTUNEL陽性細胞数はWTと比べ優位に減少していた。虚血再灌流傷害では、再灌流時に発生する活性酸素種(ROS)が心筋傷害の原因の一つとされているが、caSTAT3TGにおいて再灌流後のROS産生が優位に抑制されていた。gp130の活性化は、虚血再灌流時にSTAT3を介して活性酸素の産生を抑制することにより心筋傷害を軽減し心筋リモデリングに関与することが明らかとなった。
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