研究概要 |
1.ABI3、FUS3、LEC1異所誘導トランスジェニック植物を用いた解析 FUS3をシロイヌナズナ幼植物においてDEX誘導系により異所誘導すると種子貯蔵タンパク質遺伝子At2SおよびCRCの発現が異所誘導された。しかし、CRCの異所誘導は完全にABA依存的であったのに対し、At2S3の異所発現はABAによりそのレベルは増大したものの、ABA非存在下でも観察された。このような結果は、FUSSはABA非依存的経路で機能するというfus3変異体の解析に基づいた一般的理解に反し、ABAシグナルと強く共役して機能する場合があることを示している。また誘導のタイムコース実験からは、FUS3によるAt2S3ならびにCRCの異所誘導には、FUS3およびABA、あるいはそれぞれによって誘導を受ける別の転写因子の関与が示唆された。 一方、ABI3によるCRCの誘導はFUS3より速く観察されたことから、その作用メカニズムはより直接的であると考えられた。一方、ABI3の異所誘導の場合に見られるようなAtEm1およびAtEm6(LEA遺伝子)のABA応答発現に対する促進効果は、FUS3の場合には殆どみられなかった。このことは、ABI3によるAtEm1およびAtEm6に対するの発現促進がFUS3と共通して有するB3ドメインに依存しないこととに対応するものと考えられた。 2.FUS3異所誘導植物を用いたマイクロアレイ解析 At2S3とCRCのFUS3の異所発現による活性化は、そのABA依存性や誘導のキネティクスにおいて大きく異なっていたことから、FUS3作用メカニズムの多様性と複雑さが示唆された。このような違いの分子基盤を明らかにする目的、およびCRCの発現誘導において機能すると予想される中間転写因子を同定するため、estrogen(ESTR)導系によりFUS3を異所誘導するトランスジェニック植物を用いて、コントロール、ESTR、ABAおよびESTR+ABAの4処理について3,6,12,24,36および48時間のタイムコースを追って、マクロアレイ解析を行った。その結果、ABAおよびFUSS依存性および誘導キネティクスにおいて様々なパターンでcoregulateされる遺伝子群が同定された。また、FUS3およびABAに依存して顕著に誘導される転写因子が同定され、CRC誘導において働く中間転写因子の有力な候補と考えられた。 3.FUS3およびABI3による種子貯蔵タンパク質蓄積機能の制御(西村グループとの共同研究) 上記マイクロアレイの結果は、FUS3が貯蔵タンパク質遺伝子に限らず、広く種子貯蔵機能全般の発現制御に関わっていることを示している。FUS3およびABI3異所発現体におけるAt2Sタンパク質のウェスタン解析(西村グループと共同)を行ったところ、両異所発現体においてAt2S成熟型タンパク質の蓄積が観察された。一方、カボチャ2S遺伝子を35Sプロモーターにより発現する植物体においては成熟型タンパク質は検出されず、異常なプロセシングを受けたと考えられるタンパク質が蓄積していた。このトランスジェニック植物にFUS3あるいはABI3の異所発現トランスジーンを交配により導入したところ、カボチャ2Sタンパク質の成熟型の生成が観察された。これらの結果から、FUSSやABI3が貯蔵タンパク質遺伝子の発現制御のみらなず、蓄積システムの発現制御にも関与していることが示唆された。
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