研究概要 |
高等植物の種子細胞から,一時期に大量に合成される種子の貯蔵タンパク質の集積機構に関与する新規の小胞を発見し,PAC小胞(Precursor-accumulating vesicles)と命名した.この小胞を介する細胞内輸送経路は,ゴルジ体非依存的という点で全く新しい輸送システムからなる.PAC小胞輸送システムは,大量のタンパク質を効率よく液胞へ輸送する系として高等植物種子が獲得してきた機構と考えられる.本研究では,タンパク質の大量発現を支える細胞内小器官に焦点を当て,細胞内で大量に合成されたタンパク質の集積のために誘導される新規の輸送系のための機構を分子レベルで明らかにすることを目標とした. カボチャPAC小胞より見出した膜タンパク質PV72が貯蔵タンパク質の輸送にどのように関与しているかをin vivoで調べるために,シロイヌナズナのPV72ホモログ欠損変異体を単離し解析した.シロイヌナズナにはPV72ホモログをコードする遺伝子が7つ存在し,これらをAtVSR1〜AtVSR7と命名した.このうちAtVSR1遺伝子(At3g52850)のT-DNA挿入変異体の種子では,主要な貯蔵タンパク質である12Sグロブリンと2Sアルブミンの前駆体が大量に蓄積し,成熟型の貯蔵タンパク質の減少が見られた.他の6つの変異体ではこのような表現型は見られなかった.電子顕微鏡観察の結果,AtVSR1欠損変異体では大量の貯蔵タンパク質が細胞外に分泌されていることが判明した.アフィニティーカラムを用いた解析より,AtVSR1がブラジルナッツ2Sアルブミンの液胞輸送シグナルやシロイヌナズナ12SグロブリンのC末端ペプチドに結合能をもつことが分かった.以上の結果から,AtVSR1が貯蔵タンパク質の液胞選別輸送シグナルを認識し,蓄積の場への輸送を担っていることが明らかになった.
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