マウス骨髄由来培養マスト細胞(BMMC)をSCF存在下繊維芽細胞と数日間共培養することにより形態的及び機能的にCTMC様に成熟したマスト細胞を調整し、cDNA subtraction法により、成熟前後で発現が変動するcDNAlibraryを得た。本年度はこのcDNA libraryから同定された遺伝子のうち、従来マスト細胞で報告されていない二種の分子、NDRG1とMMIG-1について解析を進めた。 マスト細胞におけるNDRG1の機能を知る目的で、ラットマスト細胞株であるRBL-2H3細胞にNdr-1を強制発現させたところ、脱顆粒反応の亢進が認められた。このことから、Ndr-1はマスト細胞を脱顆粒しやすいフェノタイプに成熟させるか、あるいは細胞活性化シグナルの下流で脱顆粒の調節に関わる可能性が想定された。NDRG1に固有のC末端近傍の親水性リピートがNdr-1の機能発現に重要であった。大腸菌で発現させたリコンビナントNDRG1を抗原として特異抗体を作製し、抗体染色法により内在性NDRG1蛋白の細胞内分布を調べたところ、マスト細胞の細胞質がドット状に染色され、更に細胞活性化に伴って核周縁部に移行することがわかった。また、NDRG1の発現は細胞周期依存的であり、G1期に上昇し、M期に下降した。NDRG1を高発現している腎臓についてin situ hybridizationを実施し、腎皮質尿細管に分布していることが明かとなった。 新規遺伝子と思われる7種類のcDNA断片をMMIG(mast cell maturation inducible gene-1~7)と命名し、このうちMMIG-1の全構造を決定した。MMIG-1は分子量約100kDaの新規蛋白をコードしており、N末にpyrinドメイン、中央にnucleotide-binding domain、C末にLeucin-rich repeats(LRR)を有していた。これらのドメインは免疫、炎症、アポトーシスのシグナル伝達分子に見い出される構造であり、MMIG-1がこれらの生命現象に関わるシグナル伝達分子であることが示唆された。また、MMIG-1にはLRRのalternative splicingに起因する4種のサブタイプが存在し、マスト細胞のin vitroでの成熟過程において各々が異なるタイムコースで誘導されることが明らかとなった。MMIG-1をHEK293細胞に発現させ、細胞内分布を抗体染色法により調べたところ、細胞質に局在していた。しかし、マスト細胞にMMIG-1を過剰発現させる試みは成功しておらず、本因子が過剰に発現するとマスト細胞にアポトーシスが誘導されるのではないかと推察している。ごく最近、MMIG-1のヒトhomologであるCICS1/PYPAF1が論文誌上に報告された。本因子はヒト染色体1q44の寒冷蕁麻疹の原因遺伝子座にコードされており、MMIG-1のマスト細胞における機能を今後考えていく上で、大変興味深い。
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