研究概要 |
中性セラミダーゼの構造および発現制御機構の解析に関しては,所期の目標を達すると共に予想外の結果も得られた。新たに得られた重要な知見を示すと,(1)本酵素は,ほ乳動物細胞では形質膜貫通II型トポロジーを示すが,一部はN-末端部位がプロセッシングを受けて細胞外に分泌されることを明らかにした。(2)脊椎動物以上の中性セラミダーゼのN末端のシグナル配列の直後にはセリン,スレオニン,プロリンに富んだ配列(ムチンボックス)が存在し,実際に高度にO-型糖鎖で修飾されていることを見いだした。ムチンボックスは細菌および無脊椎動物の分泌型中性セラミダーゼには存在しなかった。(3)様々な変異体セラミダーゼを用いた解析からムチンボックスは中性セラミダーゼを形質膜II型膜蛋白質として発現するために必須なドメインであることを示した。(4)ラットのシグナル配列とこのムチンボックスを付加することでGFPやその他の可溶性酵素を形質膜II型蛋白質として発現させる方法を開発した。(5)中性セラミダーゼのゲノム構造を明らかにすると共に肝臓・腎臓型および脳型は異なる発現制御を受けていることを示した。(6)ゼブラフイッシュ初期胚における遺伝子ノックダウン系を導入し,本酵素遺伝子のノックダウンが正常な胚発生を著しく損なうことを見いだした。(7)一方,細胞性粘菌の本酵素遺伝子のノックアウト株は形態形成に顕著な異常は観察されなかった。このことから,脊椎動物への進化の過程で獲得されたムチンボックスは,本酵素の細胞内局在および個体における生理機能に大きな影響を持つことが推測された。(8)ゲノム構造の解析からセラミダーゼ遺伝子は27個のエキソンからなり,肝臓・腎臓型と脳型では第一エキソンを含む5'非翻訳領域が全く異なること,第一エキソンに含まれるGCボックスにップロモーター活性が存在することが明らかになった。
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