研究概要 |
セラミド(Cer)は、小胞体の細胞質表面で合成された後、ゴルジ体の内側に移行して主要膜リン脂質の一種であるスフィンゴミエリン(SM)へと変換する。前年度までに、Cer輸送欠損細胞変異株(LY-A株)を分離し、さらに、小胞体-ゴルジ体間Cer輸送のin vitro再構成系や阻害剤を開発した。これら実験系を用いた解析から、「小胞体-ゴルジ体間Cer輸送の主経路はATPおよび細胞質依存性であり、Cer認識因子が関与している」ことを明らかにしている。 平成14年度に入り、LY-A株を相補する遺伝子の同定にも大きな前進がみられた。すなわち、cDNAライブラリーを高頻度かつ安定にLY-A株に導入後、SM含有量が野生株レベルに回復した形質転換株を単離し、そこから導入遺伝子を回収することに成功した。この遺伝子は二次導入でもLY-A株を相補することを確認しており、相補遺伝子cDNAのクローニングはほぼ達成した状況にある。現在、この遺伝子産物の性状をさらに解析中である。 スフィンゴ脂質生合成の初発反応は、セリンパルミトイル転移酵素(SPT)によって触媒される。我々は、SPT活性の欠損した動物培養細胞変異株を分離・解析し,この酵素はLCB1,LCB2と名付けられた二つのサブユニットから成る複合体膜酵素であることを明らかにしてきた。最近、下肢の知覚神経が緩慢に退縮する常染色体優性遺伝病である遺伝性知覚神経障害I型(HSN1)はSPTLC1/LCB1遺伝子に特異的なミスセンス点突然変異を伴っていることが国外の複数の研究グループによって示された。本年度は、(1)LCB2の安定維持にはLCB1との会合が必要であること、(2)HSN1型変異LCB1はLCB2と不活性型の複合体を形成することでSPT活性を抑制することを明らかにした。
|