研究概要 |
膜脂質の代謝には細胞内の異なる部位で起こる複数のステップを経ることがしばしば必要であり,そのためには,脂質分子が目的の部位に的確に移動しなければならない.ところが,膜脂質の選別輸送メカニズムはほとんど未知のままである.主要膜リン脂質の一つであるスフィンゴミエリン(SM)の生合成では,小胞体で合成されたセラミドがゴルジ体に移行してSMへと変換される.我々は,セラミドの細胞内輸送が欠損した哺乳動物培養細胞変異株(LY-A株)を分離・解析し,「小胞体-ゴルジ体間セラミド輸送の主経路はATPおよび細胞質依存性である」ことなどを明らかにしてきた.また、SM含量の減少した細胞はコレステロール引き抜き試薬・メチルシクロデキストリンに高感受性になることを見いだし,この知見をもとにして、LY-A細胞の機能回復株選択法を構築していた. 本年度は、レトロウイルスベクターを用いたヒトcDNAライブラリーを導入と機能回復株の選択を通じてLY-A株で欠損している遺伝子を同定することに成功した.本遺伝子産物CERTは,約70kDaの細胞質タンパク質であり,1)プレクストリン・ホモロジー(PH)ドメイン,2)おそらく小胞体との相互作用に関わるドメイン,3)脂質転移を司ると推測されるSTARTドメインという三つのドメインから形成されている.CERTのPHドメインは,ホスファチジルイノシトール4リン酸を認識してゴルジ体にターゲットする活性を有するが,LY-A細胞由来のCERTは,PHドメイン中にミスセンス変異が起こり,ゴルジ体ターゲット機能が損なわれていた.また,CERTのSTARTドメインはセラミドを脂質膜から特異的に引き抜き,膜間転移させる活性を有していた.これらの結果から,CERTは,特異的にセラミドを小胞体膜から引き抜き,ゴルジ体膜に選択的に到達して受け渡すと提唱している.
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