リン酸化と共役して糖の細胞内への取り込みを担うPTSは、バクテリアで発見された最初のリン酸リレー情報伝達系である。His-リン酸リレー系であるPTSは、より多様な機能を有していることが明らかになりつつあり、とりわけ細胞活性制御機能に注目が集まっている。本研究は、PTSの制御機能を中心に据えて、大腸菌におけるグルコース応答の包括的理解を目指し行われ、今年度は以下の成果が得られた。 1)Mlcを介するグルコースシグナリングの新機構の発見 ptsオペロンおよびIICBGlcをコードするptsGの転写がグルコースにより誘導されることおよびこれらの遺伝子のリプレッサーMlcを同定していた。グルコースの取り込みにより脱リン酸化したIICBGlcがMlcと結合し膜にMlcを局在化させることを見出した。転写因子が膜タンパク質のリン酸化状態に対応して細胞内の存在場所を変えることでその働きが制御されていることを示した新しい発見である。 2)解糖系によるptsGの転写後段階での発現調節機構の発見 解糖系の主要な酵素phosphofructokinaseの遺伝子pfkの変異により、ptsGの発現が大きく低下すること、この調節はmRNAの分解段階で行われていること、またmRNAの分解にはRNase Eが働いていることなどを発見した。この発見は糖代謝活性と糖代謝系遺伝子の転写後段階での発現調節の密接なリンクを示したものである。
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