この研究の主な目的の一つは、「単鎖切断に対して、細胞がどのような応答をするのか」を解明することである。驚くべきことであるが、単鎖切断は、その頻度の多さにもかかわらず、適当な実験系を欠くこともあって、塩基除去修復と区別されず、殆ど研究が進んでいなかった。そのブレイクスルーには、新しい実験系を開発することが欠かせない。我々は、以前に、紫外線損傷の殆どを認識してその直ぐ5'側に3'-OHとなるニックを入れる全く新しい酵素を、アカパンカビ、分裂酵母、枯草菌などから発見し、その酵素をUV Damage Endonuclease(UVDE)と名付けた。この酵素は、ヌクレオチド除去修復でも塩基除去修復でもない第3番目の除去修復を行い、Altemative Excision Repairと呼ばれている。この遺伝子をヒト細胞に導入して発現させると、ヌクレオチド除去修復の欠損の色素性乾皮症の細胞をほぼ正常細胞なみに紫外線抵抗性にすることから、ヒト細胞でも、UVDEによって導入された3'-OHから効果的な単鎖切断の修復が働くことを示している。このヒト細胞は、これまでに生化学的手段や試験管の中で解析されてきた単鎖切断に対するヒト細胞の修復を含めた応答反応を解析するのに最適である。さらに、ヒト細胞の核の一部にのみ単鎖切断を導入する方法を開発し、それを用いて、生きた細胞が単鎖切断にどのように反応するかを可視化することに成功した。ヒト細胞は、単鎖切断が生じると、1分以内にpoly ADPリポシル化が生じ、それによりXRCC1が単鎖切断に集積する。ほぼ同時に、PCNAも切断部位に集まり、polδ依存の修復を行う。この過程は、poly ADPリボシル化とは独立して起きる事が分かった。
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