研究概要 |
1・Xpg遺伝子発現がまったく見られないxpg/2マウス由来の初代培養細胞は、早期老化や不死化を示すなど遺伝的不安定性を示唆する結果が得られている。このような遺伝的不安定性が、試験管内の再構成実験で示されたような酸化的DNA損傷の修復欠損の結果生じるものであるか否かを調べるため、supFの突然変異検出系を用いて、正常マウス由来細胞とXpg/2マウス由来細胞の自然突然変異頻度および突然変異スペクトラムを解析した。supF遺伝子の自然突然変異頻度は、xpg/2マウス由来細胞では正常マウス由来細胞に比べ約3倍高く、このことが遺伝的不安定性の原因の一つであろうと考えられた。さらにxpg/2マウス由来細胞では、A:T部位での突然変異、特にA:TからC:Gへのトランスバージョンが増加していた。xpg/2マウス由来細胞の遺伝的不安定性の原因が酸化的DNA損傷の修復欠損であるとすると、8-oxoGのようなG:C部位での突然変異を誘発するような損傷よりむしろA:T部位に変異が誘発される酸化的損傷の修復に欠損があると考えられる。 2.xpg/2マウス由来の初代培養線維芽細胞は、早期老化や不死化を示す。線維芽細胞系において認められた遺伝的不安定性が生体内の造血細胞系でも起きているか否かを調べるため、正常マウス個体の造血細胞系をxpg/2マウス由来の造血細胞と置き換えた骨髄キメラを作出した。10グレイの放射線を照射して造血系幹細胞を殺したマウスにXpg+/+,+/-,-/-(xpg/2)マウス由来の骨髄細胞を移植した。骨髄細胞を移植したいずれの骨髄キメラマウスも、現在まで少なくとも10ヶ月以上生存しており、造血細胞系では顕著な早期老化や不死化の傾向は認められていない。この骨髄キメラマウスは、造血系のみをXpg欠損細胞で置き換えた、いわゆるコンディショナルの系と考えられ、造血細胞系におけるXpg遺伝子機能を解析するための有効な実験材料となる。
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