研究概要 |
イノシトールリン脂質(PI)の3位水酸基をリン酸化するPI3-キナーゼ(p110/p85)は,p85調節サブユニットのSH2領域を介して,チロシンリン酸化された増殖因子受容体あるいはアダプター蛋白質と結合し,p110触媒サブユニットのキナーゼが活性化される。我々は先に,p110がβタイプからなる2量体型PI3-キナーゼp110β/p85が,p110α/p85タイプとは異なり,チロシンキナーゼ型とG蛋白質共役型の2種の異なる受容体の共刺激によって,相乗的に活性化されることを報告した。このユニークな特性を示すp110β/p85PI3-キナーゼについてさらに検討を加え,以下の知見を得た。 1.p85に存在する2つのSH2ドメインをp110βのN末端側に付加して,構成的に活性化型のPI3-キナーゼを作製し,それと相互作用する分子として低分子量GTP結合蛋白質のRab5を同定した。p110βと低分子量GTP結合蛋白質との結合は,GTP結合型のRab5に特異的であり,GDP結合型のRab5及び他のRabメンバーとは結合しなかった。2.PKB/AktはPI3-キナーゼの産生物PIP_3によって活性化されるが,インスリン刺激で上昇するPKB/Aktの活性化は,活性化型Rab5(S29V,Q79L)の遺伝子導入により増強され,不活性化型Rab5(S34N)によって抑制された。3.活性化型Rab5と相互作用する分子を,さらに検索し,SH2ドメインなどの機能領域をもつ新規の分子を同定した。このRab5結合蛋白質は通常細胞内の小胞に局在化しているが,M期に依存して核内に移行するという興味深い知見が得られた。さらに,Rab5の強制発現によってRab5結合蛋白質の核内移行が増強された。すなわち,Rab5は,クラスリン被覆小胞から初期エンドソームという細胞膜から細胞内への輸送に加えて,核内への輸送にも介在するという,新しい知見が得られた。
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