研究概要 |
本研究の主たる目的は,プロトンポンプ(H^+,K^+-ATPase)のイオン認識・輸送機序およびポンプの細胞内移動機構を分子レベルで解明することである。ポンプのαサブユニットは膜を10回貫通し、βサブユニットは膜を1回貫通する。これらのサブユニットの役割として,1)どの部位(複数)がプロトン・カリウムイオンを認識するか,イオンを輸送する部位であるかを解明する2)細胞内におけるポンプ生合成後の細胞内輸送に関わる部位を明らかにすることにある。 今年度においては,1)βサブユニットに結合している糖鎖の役割を明確にするための研究を行った。βサブユニットには細胞外領域に7個の糖鎖結合部位があり、いずれにも糖鎖が結合している、これらの糖鎖結合部位1個から7個までのAsnをGlnに置換し、糖鎖の数を通常より減少させた種々のβサブユニットを作成し、αサブユニット安定化作用、ポンプの管腔側細胞膜移動、酵素活性に与える影響を調べた。これらの糖鎖を3個以上除くと、α-、β-サブユニットの細胞表面への移動が見られなくなり、酵素活性も減少し,すべてを除くと酵素活性は消滅した。2)ポンプのαサブユニットのイオン認識・輸送部位機能に直接的にかかわる部位として、N末より数えて、4番目の膜貫通領域に存在するGluに注目し、このGluを種々の他のアミノ酸に置換し、ポンプの性質の変化を調べることより、その役割について研究を行った。この部位はK^+イオン結合により起きるポンプのコンフォメーション変化に直接かかわることを明らかにした。3)胃小胞体のflippaseは、内在性のリン脂質PCとPSの両方を実際に輸送することを証明した。これは、既知の2種のflippaseがPCあるいはPSの一方をATP依存的に輸送することと非常に異なることがわかった。
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