研究概要 |
本研究では、胃、腸のイオン輸送タンパク質の分子機能連関と極性移動に関して、以下のような興味深い成果を得た。 1.胃プロトンポンプαおよびβサブユニットを安定発現させたLLC-PK1細胞において、胃プロトンポンプはリン脂質フッリッパーゼとして機能することを明らかにし、リン脂質転移メカニズムについて検討した。プロトンポンプ-リン脂質複合体の分子動力学計算の結果から、α-ヘリックス構造とリン脂質間の相互作用の揺らぎが、リン脂質転移を引き起こすものと推察した。 2.胃プロトンポンプに対する酸分泌拮抗薬(SCH 28080,SPI誘導体,SK&F 96067)がドッキングするキャビティーについて、プロトンポンプ発現細胞での生化学的実験と三次元モデルによる分子動力学的手法により検討した。酸分泌拮抗薬の結合には、プロトンポンプ801番目のチロシン残基を含むE2フォームのキャビティー構造が重要であり、各種拮抗薬の阻害活性とこのキャビティーへのドッキングには相関関係が見られた。 3.ClC-2 Cl^-チャネルがプロトンポンプと協同的に機能し胃酸分泌に関与するのかについて検討した。これまで、長年にわたり米国の研究グループにより、胃酸(HCl)のCl^-分泌を担う分子実体がClC-2 Cl^-チャネルであると提唱されてきた。しかし、本研究では、Cl^-分泌を担うイオン輸送蛋白質がClC-2 Cl^-チャネルではないことを明らかにし、これまで信じられてきた米国のグループの主張を覆した。 4.ヒト大腸クリプト細胞の分泌膜のCl^-チャネルは、トロンボキサンA_2により活性化され、この活性化には基底側膜のKvLQT1チャネルが密接に関与していることを明らかにした。また、KvLQT1チャネルは、正常組織に比べがん組織において高発現しており、がん化との関連性が示唆された。
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