研究概要 |
2光子励起法は1990年代に神経を中心とした応用が広がっていたが、上皮細胞や内分泌細胞での応用はほとんどなかった。本研究では、これらの細胞での極性のあるイオン輸送や開口放出機構を解明するために、2光子励起法の応用を切り拓く狙いで計画され、本年度は、次のような成果を上げた。(1)膵臓外分泌腺組織における開口放出小胞のアクチン被覆を発見した(J.Biol.Chem.,2004)。このアクチン被覆の破綻が急性膵炎の病因となる可能性を指摘した。また、基底膜でアゴニスト依存性のアクチン被覆が起きる事も見出した(論文準備中)。(2)膵臓外分泌腺のカルシウム依存性塩素チャネルの機能分布をケイジドカルシウム試薬の2光子励起によりサブミクロンの解像で解明。狭い腺腔膜に高い発現が示唆された。腺腔側壁膜にも弱いながらも発現の可能性があり、push-pullモデルが支持される可能性が高まった(論文準備中)。(3)鼻腺上皮組織においてカルシウム波動、逐次開口放出と溶液輸送を可視化(Cell Calcium, in press)。膵臓外分泌腺と異なり溶液輸送が開口放出に先行する。(4)また、当初は予想していなかったが、2光子励起自家蛍光像を用いることで、ミトコンドリアに集積するNADHの集積状態の可視化に成功し、個々のミトコンドリアの活性状態の解析へつながった。中枢神経培養細胞に適用、電気化学的な呼吸状態の同時測定により、ミトコンドリアを介したCa^<2+>依存性の迅速な酸素代謝を初めて実証することに成功した。今後の問題点としては、ケイジドカルシウム試薬の2光子吸収が十分大きくないことから、細胞への侵襲が起きる事が問題で、試薬の開発がこの技術の普及の重要な要素になる。同様にして、2光子吸収の大きな蛍光試薬の開発は2光子励起法の発展、ひいては生体機能解析に重要である。
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