2光子励起法は1990年代に神経を中心とした応用が広がっていたが、上皮細胞や内分泌細胞での応用はほとんどなかった。本研究では、これらの細胞での極性のあるイオン輸送や開口放出機構を解明するために、2光子励起法の応用を切り拓く狙いで計画され、次の様な先進的な成果を上げた。 1)ケイジドカルシウム試薬の2光子励起によりカルシウム依存性イオンチャネルの機能分布をサブミクロンの解像で測定する手法をはじめて開発した。この方法を膵臓外分泌腺に応用してのカルシウム依存性塩素チャネルの機能分布を測定したところ、腺腔膜と基底膜には存在するが、側壁には存在しないという特有の分布をすることがわかった。側壁部にチャネルがないことにより、腺腔に放出した塩素が細胞間隙で再吸収される過程が減り、より有効な塩素のベクトル輸送が起きるという新しい機構が示唆された。この様な分布は他の上皮細胞でも利用されている可能性がある。また、この塩素チャネルの分布は塩素輸送のPush-Pull機構の存在を強く支持する。 2)膵臓外分泌腺組織の逐次開口放出の可視化し、開口放出小胞のアクチン被覆を発見した。このアクチン被覆の破綻が急性膵炎の病因となる可能性を指摘した。また、基底膜にアゴニスト依存性のアクチン被覆が起きる事も見出した。 3)鼻腺上皮組織においてカルシウム波動、逐次開口放出と溶液輸送を可視化し、膵臓外分泌腺と異なり溶液輸送が開口放出に先行することを明らかにした。 4)膵臓ランゲルハンス島内のインスリン開口放出を可視化する手法を2光子励起法を用いて開発し、融合細孔が脂質で形成されていることを明らかにした。 5)ケイジドグルタミン酸の2光子励起法により神経細胞のグルタミン酸受容体を微笑領域で活性化する手法を確立し、樹状突起スパインの形態機能連関を明らかにし、長期増強の形態基盤を解明した。
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