体節前駆細胞の形成、維持の仕組みを理解するためには、その供給源となる幹細胞の増殖能ならびに体節前駆細胞への分化能が維持される機構を解明しなければならない。これまでの研究から、マウスの初期胚では幹細胞が存在する予定体節形成領域ではWnt-3aが発現し、その機能欠失型変異体では幹細胞が体節前駆細胞に分化する能力を失う代わりに神経上皮細胞へと運命転換し、最終的には新たな神経管を異所的に形成することが明らかになってきた。さらに、Wnt-3aは予定体節形成領域においてephrinA1の発現を制御しており、ephrinA1は予定脊索領域で発現するephrinA1の受容体EphA2との反発作用により、これら2つの領域の境界形成を制御しているものと考えられた。Wntにより引き起こされるこのような現象の分子メカニズムを明らかにするため、本年度は、ゼブラフィッシュを用いて体節前駆細胞に発現する遺伝子の系統的解析を試みた。 体節前駆細胞を多く含む20体節期のゼブラフィッシュ胚の尾芽を材料にcDNAライブラリーを作製し、約4000クローンの発現パターンをin situ hybridization法により調べた結果、そのうちの158クローンが体節前駆細胞で特異的に発現していた。これら各クローンのDNA塩基配列を決定した結果、その中にはこれまで未同定だった遺伝子が数多く含まれていることがわかった。さらに、その機能を解析するためモルフォリノアンチセンスRNAの注入による機能阻害実験を開始した。
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