研究概要 |
小型魚類を用いて,体節形成と体節分化について解析を行って以下のような成果をあげた。 1.脊椎動物の体節形成の周期性は,分節前の間充織(PSM)で周期的に遺伝子発現の振動を起こす器官形成クロックによって生み出される。既に振動子の本体がhairy関連遺伝子(her)であることが明らかになっているが、振動を生み出す分子ネットワークや振動の同調をもたらすメカニズムは未解明のままであった。我々は振動の同調には、何らかの細胞間コミュニケーションが関与するはずと考え、その関与をzebrafish胚を用いたモザイク解析により検討した。特に、her欠損細胞(Deltaが恒常的に発現する細胞)を野生型胚に移植したところ,分節境界は移植片の周辺で常に前方にシフトし、時計遺伝子であるher1の振動のタイミングがコントロール側に比べ早くなることが判明した。この活性はDeltaを欠損することで消失するので、振動状態にある細胞はHERタンパクが減少すると周囲の細胞にDeltaを介したシグナルを送り、her遺伝子の発現のタイミングを補正していることが明らかになった。 2.体節における細胞のうち、遅筋や筋パイオニア細胞などは中軸中胚葉からのヘッジホッグ(Hh)シグナルによる誘導によって形成される。我々はHhシグナルが多数の異なる細胞を誘導する調節メカニズムを解析するためにゼブラフィッシュで単離されたHhシグナル変異体の解析を行った。ポジショナルクローニングによってyou変異体原因遺伝子を明らかにしたところ、you遺伝子は神経管の背側に局在する細胞外マトリックスタンパクScube2をコードしていることが明らかになった。さらに変異体の詳細な解析から、Scubeが欠損すると、背側の正中や表皮に由来するBmp分子が非常に遠くまでシグナル作用を及ぼしてHhシグナルの伝達を妨げることが明らかになった。従って、背側のBmpと腹側のHhはそれぞれのシグナルの拡散を制御することによって空間的な細胞パターンを形成することができると考えられる。
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