神経系におけるオートファジー・リソソームシステム

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12146203
• 研究種目: 特定領域研究(B)
• 研究機関: 九州大学
• 研究代表者: 山本 健二 九州大学, 大学院・歯学研究院, 教授 (40091326)
• 研究分担者: 筑波 隆幸 九州大学, 大学院・歯学研究院, 助手 (30264055) ; 中西 博 九州大学, 大学院・歯学研究院, 教授 (20155774)
• キーワード: エンドソーム・リソソーム系 / タンパク質分解 / 品質管理 / オートファジー / 神経系 / カテプシンD / ノックアウトマウス / バッテン病

研究概要

過去数年、脳に関する研究は著しい進展を遂げており、ニューロン死の病態や機構についての知見が蓄積されている。神経細胞死の病因論についても数多くの研究がなされているが、ニューロン死機構をタンパク質の品質管理機構、すなわちタンパク質分解システムの制御系と関連づけて追究した例は極めて少ない。これまでの神経細胞死におけるタンパク質分解システムに関する研究は、プロテアーゼの酵素学的な解析や形態学的な解析が主であり、細胞内タンパク質の品質管理や修飾・分解系に焦点を絞った形での研究はほとんどなされていない。本研究は、神経系のタンパク質品質管理機構におけるエンドソーム・リソソーム蛋白分解システムの機能と制御機構を解析するもので、これらを通じて、本蛋白分解システムの破綻と疾患との関係を解明するものである。カテプシンD(CD)はベプシン型のアスパラギン酸プロテアーゼで代表的なエンドソーム・リソソーム性酵素である。本年度の研究では、CDノックアウトマウスを用いて、神経系における本酵素の役割を追究した。CDノックアウトマウスは生後20日ごろから痙攣発作を繰り返すようになり、神経性セロイド様リポフスチン蓄積症の特徴である失明や早期死亡が起こっていることが明らかにされた。形態学的観察では、時間の経過とともに神経細胞内にオートファゴソームやオスミン酸親性の顆粒状沈殿物が蓄積し、セロイドリポフスチンの存在を示す自家蛍光が観察された。またヒトにおけるトリペプチジルペプチダーゼ-I(TPP-1)欠損による遅幼児型バッテン病の特徴であるATP合成酵素のサブユニットCの全身の細胞での蓄積が見られた。しかし、CDノックアウトマウスでは、TPP-1活性には異常がないことから、ヒトにおける遅幼児型バッテン病と類似した表現型を示す新しい型の神経性セロイド様リポフスチン蓄積症であることが示唆された。

研究成果

• [文献書誌] 山本健二: "歯周病原細菌のタンパク質分解酵素を介する生存戦略"蛋白核酸酵素. (印刷中). (2001)
• [文献書誌] 山本健二: "疾患とアスパラギン酸プロテアーゼ研究の新局面"医学のあゆみ. (印刷中). (2001)
• [文献書誌] Koike M. et al.: "Cathepsin D deficiency induce slysosomal storage with lipofuscin in mouse CNS neurons."J.Neurosci.. 20. 6898-6906 (2000)
• [文献書誌] Nishioku T. et al.: "Involvement of caspase 3-like protease in methylmercury-induced apoptosis of primary cultured rat cerebral microglia."Brain Res.. 871. 160-164 (2000)
• [文献書誌] Morikawa W. et al.: "Angiostatin generation by cathepsin D secreted by human prostate carcinoma cells."J.Biol.Chem.. 275. 38912-38920 (2000)
• [文献書誌] Tsukuba T. et al.: "New functional aspects of cathepsin D and cathepsin E."Mol.Cells. 10. 601-611 (2000)
• [文献書誌] 山本健二: "酵素ハンドブック"朝倉書店(印刷中). (2001)
• [文献書誌] 山本健二: "「大学と科学」公開シンポジウム"クバプロ(印刷中). (2001)
• [文献書誌] 山本健二: "ノックアウトマウスによるカテプシン機能の解析"シュプリンガー・フェアラーク東京. 113-124 (2000)