本年度は、構造生物学的研究を行なうために、大量の試料が継続的に供給されうるという基本的条件の確立を目的とした研究を行なった。可溶性グアニル酸シクラーゼについては、はじめに大腸菌での大量発現系の構築を目指した。酵素全長の大腸菌での発現は、確認されてはいたものの、収量が著しく低く実用に適しているとは思われなかった。そこでより発現が容易であると考えられているヘム部位のみについての発現系の作成を最初に行なうことにした。ウシ肺可溶性グアニル酸シクラーゼベータサブユニットのN末端アミノ酸385残基分のDNAを発現ベクターpMWに組み込み、大腸菌にトランスフォームして培養した。途中で培養温度を37℃から25℃に下げることにより比較的多量の試料を得ることができた。これをイオン交換カラムおよびゲルろ過カラムにより精製し、電気泳動的に単一な試料を得た。精製試料の電子吸収スペクトルおよび共鳴ラマンスペクトルは天然型の酵素のものと同一であった。またヘムの吸収に由来するソーレー帯の吸収極大である430nmの吸光度と芳香族アミノ酸の吸収に由来する280nmの吸光度の比はおよそ2対1であり、アミノ酸含有量から予測される値と一致した。またCO付加体の赤外吸収スペクトルではCO伸縮振動が天然型のものとほぼ同一の1984cm-1に観測された。これらのことから、今回精製された試料は構造生物学の研究に使用して差し支えないと考えられる。ただし、天然型酵素でみられるような基質や生成物の結合効果はヘムドメインのみでは全く見られなかった。
|