転写調節因子CooAは、その分子中にCOセンサーとして機能するプロトヘムを有している。本研究では、EXAFS(Extended X-ray Absorption Fine Structure)法により、CooA中に含まれるヘムの配位構造の決定を行ない、鉄配位子間の結合距離を精密に決定した。部位特異的変異導入の結果も総合し、酸化型ヘムではPro2とCys75が、還元型ヘムではPro2とHis77が、CO結合型ヘムではHis77とCOが、それぞれヘムに軸配位していることを明らかにした。ヘムの酸化状態変化に伴う、Cys75とHis77との軸配位子交換反応が進行するため、CooAは特異な電気化学的挙動を示す。すなわち、電気化学的酸化還元滴定において、酸化滴定曲線と還元滴定曲線に約60mVのヒステリシスが存在する。還元電位は-320mV、酸化電位は-260mVと決定された。 本研究ではさらに、NMR法により、COによるCooA活性化機構について検討した。その結果、COがヘムに配位する際に、還元型ヘムに配位していたPro2と置換し、Pro2がヘムから解離することが、活性化の引き金になっていることを明らかにした。さらに、His77をチロシンに置換したH77Y変異体においては、COがPro2のトランス位に配位し、CO結合型においてもPro2がヘムに軸配位したままであることも見出した。H77Y変異体は、野生型CooAの場合とは異なり、COによる活性を受けない。これは、本変異体ではCOの配位する位置が野生型とは異なるため、COがヘムに配位した際に、活性化に必要な構造変化が起こらないためであると考えられる。
|