紅色非硫黄光合成細菌Rhodospirillum rubrum中に含まれる転写調節因子CooAは、一酸化炭素を生理的なエフェクターとする、これまでに全く例のない、新規な転写調節因子である。その分子中には、一酸化炭素センサーの本体として機能するプロトヘムが含まれている。本研究では、各種分光学的な測定と、遺伝子工学、および分子生物学的な実験手法を駆使することにより、CooAの構造と機能の解明を目的として研究を行った。その結果、CooA中のヘムは、下記(1)〜(3)に示すような、従来のヘムタンパク質では見られない、特異な性質を有していることが明らかとなった。 (1)酸化型、還元型ヘムには、N末端のプロリン残基が軸配位子として配位している。 (2)酸化型ヘムにはCys75が、還元型ヘムにはHis77が軸配位しており、ヘムの酸化状態変化にともない、Cys75とHis77との間で軸配位子交換反応が進行する。 (3)還元型ヘムは、配位飽和な6配位構造を有しているにも関わらず、一酸化炭素と容易に反応し、CO結合型ヘムを生成する。その際、還元型ヘムに配位していたProとCOとの間で軸配位子交換反応が進行する。 上記の特異な性質は、CooAの機能発現に密接に関与している。Cys75とHis77との間の軸配位子交換反応は、CooA中のヘムの酸化還元電位を精密に制御することにより、CooAの活性化、不活性化に関与していると考えられる。CooAは、CO結合型においてのみ転写活性化因子としての活性を示す。これは、COとProとの間で軸配位子交換反応が進行することで、CooA分子の構造変化が誘起されるためであると考えられる。
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