酸化ストレスが増大すると、防御修復系タンパク質の活性誘導される現象が広く生物界に見られる。大腸菌において、スーパーオキサイドアニオン産生に応答する遺伝子の発現調節に関わる調節因子であるSoxRが単離されている。SoxRは、転写制御部位に鉄イオウクラスターを持ち、その酸化還元より転写調節するというユニークな性質を有し、その特異な構造と機能は注目される。本研究では、大腸菌におけるSoxRに依存した酸化ストレス応答の分子機構を明らかにすることを目的としてSoxRのX線構造解析を目的として結晶化を試みてきた。その結果得られた結晶を用いて、X線回折実験を行ったところ、最高で3.8Å分解能を超える反射が確認できた。またSoxRの鉄イオウクラスタードメインのNMRおよび共鳴ラマンスペクトルによる測定を行い、現在まで知られている鉄イオウクラスターとは全く異なるスペクトルを得た。 このSoxRと同様なアミノ酸配列を持つタンパク質が種々のバグテリアにも存在している。しかしながら、E.coliと異なり、いずれのバクテリアにおいても酸化ストレス応答に必要なもうひとつの転写因子であるSoxSが存在しない。またsoxRの5'上流にSoxRタンパク質の結合領域と相同の配列と未知のタンパク質のORFが存在している。そこで、本研究では、その一例としてPseudomonas aeruginosa(P.aeruginosa)におけるSoxRを大量発現、精製を行い、その機能について調べた。P.aeruginosaのSoxRは鉄イオウクラスターに特徴的な吸収スペクトルを持ち、またその酸化還元電位もE.coliと同様な値を示した。精製したタンパクはSoxR配列の5'上流に存在するE.coliにおけるsoxSプロモーターと同様な配列を持つDNA fragmentに結合することがゲルシフト法およびfluoresence polarizationにより確かめた。またP.aeruginosaのすぐ上流に存在する未知のタンパク質のin vitroでの転写活性が見られ、この活性がSoxRの酸化還元により制御されていることが分かった。以上の結果より、SoxRは酸化ストレス以外の多様な応答遺伝子として働いていることが明らかになった。
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