バクテリア、カビ、高等植物に広く存在する2成分情報伝達系はタンパク質のリン酸化反応によって外部からの刺激に対して細胞内でシグナル伝達を行う。本年度はまず、タンパク質間のリン酸化リレー反応によって生じた個々のタンパク質のリン酸化レベルをラジオアイソトープ標識したATPを用いて、ウエットSDS-PAGEゲルで定量する方法を考案した。この方法は従来法より簡便かつ正確に定量できる上、酸・アルカリで不安定なタンパク質のリン酸基の定量にも十分適用できることを示した。 次に、2成分情報伝達系のパラダイムとしてヘム結合型酸素センサーキナーゼであるFixLのリン酸化反応制御における一酸化炭素、一酸化窒素の効果を調べた。FixLはリガンドである酸素がFixLのヘムに結合していない時には自己リン酸化反応が起こるが、酸素結合によりリン酸化を抑制することで環境の酸素濃度を感知する。しかし、分子構造が類似している2原子分子である一酸化炭素、一酸化窒素を結合させた場合はリン酸化反応の抑制が見られないことを明らかにした。この結果はFixLが一酸化炭素、一酸化窒素のセンサーとはなり得ず、酸素のみをセンシングするガスセンサーであることを意味する。ついで、2原子分子のうち、酸素のみを認識するメカニズムを明らかにする目的でトリプトファンを蛍光プローブにして、UV共鳴ラマン分光法を用いて、結合した酸素分子近傍のアミノ酸が分子認識に関与していることを示した。これらの結果から従来提唱されていたヘム鉄の電子スピン状態とキナーゼ活性の相関を否定する新しいモデルを提唱した。
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