脊索動物門はホヤなどの尾索類、ナメクジウオの頭索類、それに脊椎動物からなる。これらの動物は脊索・背側神経管・鰓裂など多くの共有形質を有し、共通の祖先から進化してきたものと考えられている。ホヤのオタマジャクシ幼生は約2600個の細胞からなるが、体幹部背側の中枢神経系(構成細胞数約350)、尾部の脊索(構成細胞数40)や筋肉(構成細胞数約40)など、脊椎動物の体制の原型がそこに存在する。また、これらの細胞の系譜がほぼ完全に解明されている。ユウレイボヤ(Ciona intestinalis)のゲノムサイズは約160Mb、遺伝子数は15500と推定されており、これらの遺伝子の発生における発現システムを各割球1つ1つのレベルで解析することが可能である。こうしたバックグラウンドをもとに、本年度は特に「組織・器官形成に働く遺伝子の多くが発現していると思われる尾芽胚について、その遺伝子発現プロファイルの網羅的解析」を行い、次のような成果が得られた。 統合ゲノム・シーケンシングセンターの協力を得て3423クローンのEST解析を行ったところ、これらは1213の独立クラスターを表すことが分かった。これら1213クラスターの全てについてホールマウントin situハイブリダイゼーションによってその発現を調べたところ、149遺伝子が表皮細胞特異的に、34遺伝子が神経系特異的に、29遺伝子が内胚葉特異的に、112遺伝子が間充織特異的に、31遺伝子が筋肉細胞特異的に、そして32遺伝子が脊索細胞特異的に発現していることがわかった。すなわちこの研究によって、ユウレイボヤ胚発生における全ての細胞型の分化マーカーが得られたことになり、今後の発生メカニズムの研究に大きな貢献となったと考えられる。また、これらの組織特異的発現遺伝子を表1のカテゴリーに振り分けてみると、内胚葉では細胞間相互作用で働く遺伝子の発現が多いことや、筋肉細胞では細胞骨格関連遺伝子の、また脊索細胞では代謝関連遺伝子の発現が多いことなどが分かった。
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