本研究では、様々な疾患で、染色体異常が疾患関連遺伝子の破壊もしくは脱制御化等を引き起こし、病気の発症を引き起こすことに着目し、染芭体の構造異常を指標とするヒト疾患遺伝子の効率的探索法の開発を目的に研究を行った。その結果、本年度、以下の2つの成果が得られた。 1.)Adaptor-ligated PCR法を応用した、HTLV-1ウイルスのインテグレーション部位の迅速単離法を開発。 この方法を用いてHTLV-1ウイルスのゲノム挿入部位のクローン化を行いウイルスの挿入によって影響を受ける遺伝子を探索した結果、解析した10症例のうち1症例において、IL4受容体遺伝子座におけるHTLV-1ウイルスの挿入を認めた。そのほかにも3例でESTの内部または、そのごく近傍に挿入が検出され、ウイルス挿入による遺伝子発現変化に興味が持たれた。 2.)成人T細胞白血病(ATL)関連遺伝子の同定 ATLでは14番染色体q32領域における染色体転座が好発する。われわれはこの領域に着目し染色体転座切断点の詳細なマップを作製し、この領域に存在する新規遺伝子を同定しATL1と命名した。この領域に染色体異常を持つ3症例のATL患者について、Adaptor-ligated PCR法を用いることによって染色体異常の切断点をクローン化しATL1遺伝子との関連を解析した。その結果2症例は、ATL1遺伝子座のプロモーター領域で染色体転座を生じ、残りの1症例では、ATL1遺伝子座内における染色体転座が検出された。また、これらの症例でATL1遺伝子の発現低下が観察された。さらにATL1遺伝子座内に染色体転座を認めないATL症例においても、この遺伝子の発現消失もしくは減少が高頻度に観察されたことから、染色体転座のみならずメチル化などを介したATL1遺伝子の発現低下が、ATLの発症と深く関わっている可能性が強く示唆された。
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