・西南日本に多発する成人T細胞白血病(ATL)のほとんの症例ではHTLV-1ウイルスのゲノム内への挿入が検出される。一般にHTLV-1ウイルスのゲノム内への挿入は無作為に起こると考えられ、挿入部位単離法の煩雑さならびにゲノム情報の不足から従来、挿入部位近傍に存在する遺伝子と癌化機構との関連が十分に解析できなかった。そこで本研究ではゲノム情報が飛躍的に充実してきたこの機会を利用し、ウイルス挿入部位を迅速に単離し、より多くの症例についてその近傍に存在する遺伝子との関連を解析するための方法論を開発した。 5種類のATL細胞株と35症例のATL患者由来試料から約54箇所のウイルス挿入部位を単離し、その近傍の遺伝子との関連を解析した。ウイルスは約60%の頻度で何らかの遺伝子中に挿入されていた。HTLV-1の挿入によって挿入を受けた細胞内遺伝子の発現が変化するか否かを解析した結果、約20%の頻度で遺伝子の過剰発現が誘導されることを見いだした。 ・遺伝子の3'側の構造を解析するためには、3'RACE法が広く用いられている。しかし、従来の手法は、mRNAに共通するpolyA鎖をcDNA合成の開始地点として利用するため、大きな転写産物の上流から下流に向かって解析を進めることが非常に困難であった。そこで、今回ランダム9マーを含む特殊な構造をもつプライマーを用いて、大きな転写産物の構造解析に役立つ3'RACE法を新たに開発した。
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