本研究は、外来性に特定の遺伝子を発現させる等の操作を行った培養細胞の遺伝子発現データを用いて、疾患の遺伝子発現を理解する基盤を構築し、病態の把握や病因の解明に役立てる手法を開発することを目的としている。この目的のため、主に急性骨髄性白血病(AML)を対象とし、DNAチップ(マイクロアレイ)を用いて以下の解析を行った。 1.白血病キメラ転写因子が引き起こす遺伝子発現異常の解析:白血病キメラ転写因子AML1-MTG8がマウス骨髄系細胞株L-Gに引き起こす遺伝子発現変化を解析し、前骨髄球以降の分化を阻害することを示した。 2.好中球分化に伴う遺伝子発現変化の解析:マウス骨髄系細胞株L-GMを用いて、G-CSFにより分化を誘導する系と、転写因子C/EBPα、C/EBPε、PU.1の発現により分化を誘導する系を構築し、分化に伴う遺伝子発現変化を解析することで、分化制御パスウェイの一端を明らかにした。 3.小児AMLの遺伝子発現解析:61症例の小児AML臨床検体の遺伝子発現を解析し、AMLの遺伝子発現パターンがt(8;21)、inv(16)、11q23再構成、+21等の染色体異常により強く規定されていること、少ないながら予後と相関する遺伝子発現シグナチャが存在することを明らかにした。 4.白血病の病態解析法の開発:3.において明らかになった分化パスウェイ特異的遺伝子の発現を比較することで、各分化パスウェイの活性化状態を把握するシステムを開発し、白血病発症に働いている分化阻害機構を予測できる可能性を示した。 5.細胞の形質転換に関わる遺伝子の解析:白血病以外の悪性腫瘍の解析を行う基盤として、Srcプロテインキナーゼが正常細胞を形質転換する時に発現変動する遺伝子の解析を行い、基質非依存性増殖に関わる遺伝子と、運動能に関わる遺伝子を同定した。
|