研究概要 |
ヒトゲノム解読の後には遺伝子発現制御機構の解析が重要性を増すことが予想される。私どもはラットのサイクリンD1遺伝子5′側上流領域をクローニングし、白血病細胞のサイクリンD1発現がプロモータ領域のCpGメチル化によってEpigeneticalに制御されることを示した。さらにCpGメチル化を組織形態と対応して解析するために、病理組織検体からCpGメチル化を検出する方法の基礎的検討を行った。即ち、ホルマリン固定パラフィン包埋の薄切標本をアガローズビーズに封入してDNAの化学的修飾やPCR・DNAシーケンスを行うことにより、微量検体からのCpGメチル化検出を可能にした(Lab Invest2000)。また、ヒト前立腺癌においてBMP-6遺伝子プロモータ領域のメチル化がBMP-6の転写を制御することを示し、前立腺癌の手術・剖検症例を用いた検索を行った。BMP-6mRNAは低分化型腺癌に高率に発現するとともに他臓器の転移浸潤部位では発現が高い傾向を示したが、micro dissectionで切出した腫瘍組織を用いてCpGメチル化の解析を行い、BMP-6発現がプロモータのSp1結合配列近傍のCpGメチル化によって制御されることを報告した(J Bone Miner Res,in press)。腫瘍の増殖・進展過程でCpGメチル化の変化により遺伝子発現(あるいは発現抑制)を来たし、転移浸潤に関わる生物学的特性を獲得する可能性が示唆された。 私どもの方法論により、組織像に着目して標本の任意の部位で対象遺伝子のCpGメチル化の解析を行い「組織形態と対応した遺伝子制御研究」を進めるとともに、病理組織検体として集積されたゲノム資源を活用して疾患病態の解明を行うことが可能になる。以上の成果は第89回日本病理学会総会ワークショップ、第23回IAP総会シンポジウムにて発表した。
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