研究概要 |
これまでに開発してきたキャピラリー電気泳動/質量分析計法(CE/MS法)とオンライン試料濃縮法を用いて,枯草菌の解糖系,クエン酸回路,ペントースリン酸回路の3代謝系をふくむ主要300代謝物質の一斉化学分析をおこなうことを目的とした.枯草菌体からの抽出法に改良を加えることによって,抽出物に含まれる脂質がキャピラリー内壁へ膠着して分析を阻害する問題や,酵素タンパク質が抽出された代謝物質に作用する問題などを解決した.枯草菌をグルコースをはじめ異なる6種の炭素源で培養し,対数増殖期の細胞中にある88代謝物質をCE/MS法で定量分析した.生育曲線はピルビン酸培地以外はほとんど同じであった.炭素源が細胞内に取り込まれた最初の代謝物質の濃度が極めて高かった.解糖系(あるいは糖新生)ではphosphoenolpyruvateやPyruvate, dihydroxyacetone phosphateが2-4mM存在し,クエン酸回路ではクエン酸,コハク酸,2-oxoglutaretaの濃度が高く,ペントースリン酸回路ではribulose-5-phosphateの濃度が高いことがわかった.炭素源の違いにかかわらずこれらの傾向は共通していた.アミノ酸ではGlu、Gln、Val、Aspが比較的高い.炭素源で特徴的な代謝プロフィールを示したのはリンゴ酸であった.これらの結果に,同条件下で測定したDNAマイクロアレイによる酵素遺伝子発現データを重ねあわせてみると,炭素源トランスポータ遺伝子や,糖新生ではpckAやgapBの発現が顕著であった.レーザー励起蛍光検出とオンライン試料濃縮法とを組み合加,リボフラビン,FMN, FAD 3種の高感度分析法を確立した.また,PHジャンクションとスウィーピングを組み合わせたオンライン試料濃縮法も開発した.3種の化合物の検出限界は10picoM以下と高感度であるが,枯草菌抽出液中のFMNと.FADの濃度はともに10E-7 Mレべルであった。リボフラビンは検出されなかった.これは抽出中に酸化されるためと推定される.現在までに365代謝物質の分離定量が可能になっている.
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