研究概要 |
本研究課題によってこれまでに開発してきた代謝物質の網羅的化学分析法を枯草菌のメタボローム解析に応用した.枯草菌をグルコースを炭素源として培養し,菌体を収集した.代謝物質を抽出,蛋白質や脂質を除いた後,カチオン性代謝物質,アニオン性代謝物質およびモノヌクレオチド類代謝物質,それぞれに分離条件を最適化した3つのCE/MSシステムを利用して化学分析をおこなった.あらかじめ176カチオン性代謝物質,125アニオン性代謝物質,41モノヌクレオチド類,合計352代謝物質について移動度の測定とMSピーク面積の測定をおこない検量線を作成した.m/z=70から1027のスキャン範囲で,1054カチオンと638アニオン(モノヌクレオチドを含む)の合計1692のピークを検出した.それらのうち,標準物質のCE移動度とMSピークm/zがともに一致したもの(すなわち同定・定量することができた代謝物質)は150であった.細胞1個あたりに存在する代謝物質量を計算すると,アデニン40 zeptomole,グルタミン350 atomoleであった.ピーク面積やCE移動時間の再現性を63代謝物質について計算した結果,CE/MSを用いた分析は実用に十分な測定精度と再現性を保っていることがわかった.検量線を作成していないために同定・定量ができなかった残り1,542ピークについて,それらの質量に一致する代謝候補化合物をKEGG COMPOUNDデータベースから検索した.分析条件や移動度,同位体ピーク比などを考慮して絞込みをおこなって83ピークについて代謝物質を推定した. この測定は,全ての代謝物質のめ同定にはまだ遠い結果であったが,CE/MSを用いたメタボローム解析が生物学をはじめとする基礎研究分野のみならず医療診断や創薬など応用分野にも利用可能な技術であることを実証することができたことに意義がある.
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