研究概要 |
細胞や組織内に存在する代謝物質のほとんどが水溶性,イオン性であるので,従来の化学分析法は分析できなかった.キャピラリー電気泳動法と質量分析を組み合わせたCE-MSの問題点を解決して,エネルギーやアミノ酸や核酸の生合成の出発原料を生合成している解糖系やTCA回路などのエネルギー代謝系の代謝物質を,化学誘導体化などをすることなく分析する方法を開発した.枯草菌の代謝の特徴を代謝物質から解析した成果は以下のとおりである.枯草菌をグルコースで培養すると,代謝物質によって細胞内量は異なっていた.他の炭素源で培養して最大増殖速度がグルコースの場合と同じになったとき,代謝物質の細胞内量はグルコースで培養したときと同じプロファイルを示した.すなわち,細胞分裂が必要とする代謝物質の相対量(プロファイル)はあらかじめ決まっていて,そのプロファイルをとることが細胞分裂の必要条件であることがわかった.このような代謝物質プロファイルは生物種によって異なっている.生育条件が異なってもこのプロファィルを維持していることが「代謝の恒常性」であり,このプロファイルを維持する機構が代謝調節といえる.代謝物質の化学分析と同時に酵素遺伝子の発現をマイクロアレイで測定して,その結果を代謝物質プロファイルの上にプロットした.そうすると,炭素源によって酵素遺伝子の発現が異なり,その違いから単に酵素遺伝子の発現量を調節するだけでなく,代謝経路の切り替えによって恒常性を維持していることがわかった.アイソザイムの1つを変異によって欠失させた変異株では,表現型には何も違いは現れなかったが,代謝物質や酵素遺伝子発現のプロファイルは局所的に大きく変化が現れた.このように環境や遺伝子の変化に伴って代謝物質プロファイルの全体像はそれほど違わないのに,局所的に変動した.これは,メタボローム解析が病気の診断に利用できることを示唆している.
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