<背景と目的> マウス精原細胞を通して、生殖細胞の本質に迫ることを目指す。精原細胞は、精巣内で減数分裂に入る前の細胞で、「全能性」、「減数分裂の制御」、「インプリンティング」といった重要な細胞機能を担う。精原細胞の一部は精子形成の「幹細胞」として機能する。しかし、ここで機能する分子の知見は非常に少ない。本研究では、生殖細胞特異的にGFPを発現するトランスジェニック・マウスからセル・ソーティングを行うことにより、少数の精原細胞を高度に純化し、cDNAライブラリーを構築した。これを用いて、精原細胞に発現する転写因子及び細胞表面タンパク質、分泌タンパク質を網羅的に検索した。 <検討結果> 転写因子の検索は、転写のco-activatorであるCBP、およびbasic helix-loop-helix型転写因子の共通の結合因子であるE12をbaitとした酵母two-hybrid法を用いた。前者のスクリーニングでは、転写制御に関わると考えられる因子を多数得ている。うちいくつかは生殖細胞に高く発現していた。後者の実験の結果6つのbHLH因子を同定した。ここには非常に未分化な精原細胞に限局して発現する因子、減数分裂の前後に発現する因子が含まれていた。いずれも新規の知見である。 同一のcDNAより、Signal Sequence Trap法により細胞表面タンパク質や分泌タンパク質の検索を行った。解析が進行中であるが、現在までに367クローンを単離し、塩基配列の決定により46の既知及び未知の分子を同定した。 <考察> 本研究で得られた因子が特異的な転写制御複合体を作る可能性、幹細胞や減数分裂の制御を行う可能性が示された。やはり同定されつつある受容体を含む細胞表面分子や分泌因子を介したシグナルが、これら核内因子と機能的連関を持つことにより生殖細胞機能を制御する全体像が明かとなることが期待される。
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