本研究は、発生期の神経パターン形成において重要な役割を果たすフロアープレート細胞に特異的に発現する新規のスルファターゼsulfFP1とオートタキシンの生体内における役割を解析し、神経回路形成の分子機構について明らかにする事を目的としている。 ラットのsulfFP1は、870アミノ酸から成る新規のスルファターゼで、既知のスルファターゼとN末の酵素活性部位で配列の保存性が高い。sulfFP1蛋白は、ゴルジ体と小胞体に局在し、一部の蛋白質が細胞外にも存在する事から、蛋白質の合成過程または細胞外で働くと考えられる。sulfFP1 mRNAは、フロアープレートの他、脳室脈絡叢、軟骨形成部位などに発現している。最近、ウズラの相同遺伝子Qsulf1がWntシグナル伝達の調節に関与する事が報告された。我々もゼブラフィッシュで相同遺伝子を阻害すると発生初期に形態形成異常が起こる事を明らかにしている。 オートタキシンは、2型の膜蛋白質で、細胞外にフォスフォジエステラーゼの活性部位、EFハンドモチーフ等を持つ。我々は、膜型オートタキシンから、細胞外領域が切断された酵素活性を持つ分泌型蛋白が生成される事を明らかにした。オートタキシンmRNAもフロアープレート、脳室脈絡叢、骨形成部位に発現が強い。 本年度は、両遺伝子の酵素活性部位をコードするエキソンをloxPで挟み、コンディショナルに遺伝子を破壊できるコンストラクトを用いてES細胞に遺伝子導入を行った。その結果、両方の遺伝子について正しく相同組み換えの起こった細胞株が数系統得られたので、これらのES細胞をマウス胚盤胞に注入し、キメラマウスの作成を行った。更に、コンベンショナルな方法で遺伝子破壊する為のベクターの作成、ならびに相同組み換えを起こしたES細胞のスクリーニングも行った。
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