研究概要 |
パーキンソン病(PD)、Lewy小体型痴呆症(DLB)などの神経変性疾患を特徴づける病理学的変化がLewy小体、Lewy neuriteの出現である。これらの線維性病変の主要な構成蛋白は、正常にはシナプス前末端に分布するα-シヌクレインであり、α-シヌクレインの異常凝集過程が神経細胞死の原因として作用するものと考えられる。疾患脳に蓄積したα-シヌクレインに特徴的な翻訳後修飾を明らかにするために、DLB脳から不溶性α-シヌクレインを抽出、精製し、臭化シアンで切断、HPLCにてペプチド断片を分取し、質量分析に供したところ、セリン129のリン酸化を同定した。セリン129のリン酸化はPD, DLB以外にも多系統萎縮症、Hallervorden-Spatz病など、種々のシヌクレイノパチーの蓄積病変に共通に観察された。新鮮な正常ラット脳のα-シヌクレインはその約5%がリン酸化されているのに対し、蓄積α-シヌクレインの90%以上がリン酸化されていることを確認した。α-シヌクレインを神経細胞に過剰発現したトランスジェニックマウス、ショウジョウバエ、線虫においても、神経細胞体、一部突起中のα-シヌクレインに同部位のリン酸化が確認された。In vitroでリン酸化によりα-シヌクレインの凝集能は亢進した。α-シヌクレインのセリン129のリン酸化は、α-シヌクレインの異常凝集の病因にかかわる、特異的変化として重要であり、今後責任キナーゼの同定、リン酸化抑制による凝集、細胞死への影響の解析が重要と考えられる。
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