研究概要 |
α-synuclein(aS)の不溶化と蓄積はパーキンソン病(PD)をはじめとするsynucleinopathyの病因と考えられている。我々はaSの蓄積に特徴的な翻訳後修飾の同定を目的として、PDの類縁疾患であり大脳皮質にLewy小体の出現するLewy小体型痴呆症(DLB)の脳に蓄積したaSを蛋白化学的に解析し、Ser129の特異的リン酸化とユビキチン化を見出した。本年度はユビキチン化部位の正確な同定を試みた。DLBおよびaS蓄積を広汎に生じるHallervorden-Spatz病大脳皮質よりトリス緩衝液、Triton X-100で可溶性のaSを抽出後、Sarkosyl不溶画分から8M尿素可溶画分に回収される不溶性aSを解析した。ウェスタンブロット上、蓄積aSは主に15kDaに泳動されたが、22,29kDaにもaS陽性バンドが観察され、これらは抗ユビキチン抗体にも反応した。22kDaポリペプチドをゲル濾過、HPLC分離にて精製し、プロテアーゼ消化後LC-タンデムマス解析したところ、aSのN末端部分のLys12のモノユビキチン化が見出された。aSの不完全なユビキチン化がその蓄積に関係している可能性がある。 神経細胞にaSを過剰発現した線虫(C.elegans)を作出し、aSの蓄積と機能障害の評価系構築を目指した。本年度はC.elegansの摂食行動に関与するdopamine neuronに特異的なdat-1プロモータを用いて、野生型、家族性PD変異型(A30P, A53T)aSを発現するトランスジェニック線虫を作出した。免疫組織化学的にaSの発現をdopamine neuronの細胞体・突起に確認した。線虫はエサとなる大腸菌が存在すると、前進速度(bending頻度)が低下する。野生型aS発現ライン、βシヌクレイン発現ラインではbendingの低下はほぼ正常であったが、dopamine産生の欠如したcat-2変異では低下がみられず、A53T, A30P変異aS発現ラインにおいても低下が不十分であった。これらの異常はdopamine投与により正常化した。家族性PD型変異はaSの凝集性を亢進させる可能性がin vitroで示されており、変異型aS発現ラインにおけるbending assayの異常は変異型aSの蓄積による機能障害を反映している可能性がある。
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