本研究においては、孤発性パーキンソン病ならびにその類縁疾患であるLewy小体型痴呆症(DLB)発症の分子機構の解明を目的として、特に変性神経細胞に蓄積するLewy小体(LB)を構成するα-synuclein (aS)蛋白の病理生化学的性質、ことに翻訳後修飾に焦点をあてて検討を行った。DLB大脳皮質に不溶化・蓄積したaSを分別抽出、HPLC精製し、質量分析法にて解析したところ、aSのSerl29が特異的にリン酸化されていることを見出した。Ser129リン酸化特異抗体を作製し、パーキンソン病、DLBをはじめとするsynucleinopathy脳を免疫組織化学的に解析したところ、リン酸化aSはLBなどの明瞭な細胞質内封入体を形成する以外にも、神経突起内に広汎に蓄積していることを明らかにした。また蓄積aSの一部はN末端部分のリジン残基においてモノユビキチン化を受けていることを見出した。蓄積aSの多くは全長蛋白質からなるが、proteinase K処理により、蓄積した線維のなかでaSの中間部はプロテアーゼ耐性のコア構造を形成していることを見出した。またaSを神経細胞に過剰発現したトランスジェニックショウジョウバエを作出し、蓄積aSのリン酸化を確認した。さらに培養細胞にaSとsynphilin-1を過剰発現させた場合、Ser129リン酸化が細胞死と凝集物形成を促進することを見出し、Ser129リン酸化が細胞変性に関与することを示した。今後リン酸化を担うキナーゼの同定、リン酸化aSの細胞障害性の分子機構の検討をさらに行い、翻訳後修飾を標的とする細胞死防御法を樹立したい。
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