研究概要 |
本研究では,ポリグルタミン病における神経細胞変性の分子機構を明らかにし,その分子機構に基づいて,神経変性に対する治療法,予防法を開発することを目的とした。脊髄小脳変性症の一つで,ポリグルタミン病に含まれる歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症(dentatorubral-pallidoluysian atrophy,DRPLA)について,全長のヒトDRPLA遺伝子を単一コピーで有するトランスジェニックマウスの作成に成功した。このトランスジェニックマウスは,DRPLA症例と類似した表現型,病理所見を示し,核内凝集体の出現に先立ち変異DRPLAタンパクが核内に集積すること,神経細胞死は観察されず,神経細胞が萎縮性になっていることを明らかにした。特に重要な点として,この変異タンパクの神経細胞核内集積が,時間依存性,CAGリピート長依存性,そして部位特異的に生じ,その部位特異性はヒトの剖検脳の病理学的所見,臨床症候ときわめて良い対応を示すことを見いだした。この結果から,変異タンパクの核内集積に伴って,何らかの核の機能障害,特に転写障害を引き起こしている可能性が考えられた。この仮説に基づき,核内転写因子関連蛋白について,伸長ポリグルタミン鎖と結合するタンパクが存在するかどうかを検索し,TATA-binding protein-associated factor(TAFII130)が伸長ポリグルタミン鎖と結合し,CREB(cyclic AMP-responsive element-binding protein)依存性の転写活性化を強く抑制することを見いだした。本研究で見いだした転写障害が,実際い個体レベルで生じているかどうかをトランスジェニックマウスを用いて検証し,治療法の開発につなげていく必要がある。
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