小脳におけるシナプス可塑性は運動学習の基盤と考えられており、平行線維・プルキンエ細胞間のグルタミン酸作動性興奮性シナプスで起る長期抑圧、抑制性介在神経細胞・プルキンエ細胞間のGABA作動性抑制性シナプスで起る脱分極依存性増強等が知られている。本研究では、これらのシナプス可塑性の発現・維持・制御の分子機構を解明すること、これらのシナプス可塑性が生体内で果たす役割を明らかにすることをめざしている。平成12年度の研究では、GABA作動性シナプスにおける脱分極依存性増強の制御機構に関する研究が大きく進展した。私たちは脱分極依存性増強が脱分極時にシナプス前神経細胞を活性化することにより抑えられることを発見した。この可塑性制御の分子機構を、培養プルキンエ細胞にパッチクランプ法および細胞内カルシウムイオンのイメージング法等を適用することにより解析した。その結果、プルキンエ細胞脱分極時にシナプス前神経細胞からGABAが放出されると、それがシナプス後プルキンエ細胞のGABA(B)受容体に作用することにより、脱分極依存性増強が抑えられることが明らかになった。プルキンエ細胞のGABA(B)受容体活性化によって、(1)カルシウムイオン流入量が減少する、(2)アデニールシクラーゼの活性が低下し細胞内cAMP濃度が減少する可能性が考えられた。私たちは、これらのうちのいずれが脱分極依存性増強の抑制に関与するか検討し、後者により引き起こされるAキナーゼの活性低下が脱分極依存性増強を抑えていることを明らかにした。また、脱分極依存性増強の抑制の生理的役割も探索し、この増強抑制が各シナプス特異的に情報伝達効率を制御する機構となっていることを示すデータを得た。上記の他、長期抑圧の発現・維持の分子機構の解析、長期抑圧を示さないミュータントマウスでの運動制御・運動学習についての解析が進行中である。
|