研究概要 |
(APPトランスジェニックマウスにおけるAβの作用を選択的に抽出するために、トランスジェニックマウスとAβ分解酵素ネプリライシンノックアウトマウスを交配した。その結果、Aβオリゴマーが顕著に増加し、APPや他のAPP断片の量は不変であった。さらに、APPトランスジェニックマウスは、ネプリライシン活性抑制により、in vivoの神経可塑性が有意に低下した。 ネプリライシンの発現制御機構の検討をおこなったところ、約50種類の神経ペプチドや神経保護因子やサイトカインの中で唯一、ソマトスタチンが初代培養ニューロンにおいてネプリライシン活性を増強することを見いだした。さらに、ソマトスタチンノックアウトを用いて検討を進めたところ、ソマトスタチン欠損は脳内のネプリライシン活性の低下を招き、さらにAβ(特にAβ42)レベルを上昇させることを確認した。これは、ソマトスタチンリセプターアゴニスト、あるいは、ソマトスタチン分泌促進薬が脳内のAβレベルを低下させる作用のあることを示唆する。以上の結果は、薬理学的手法を用いてAβ分解システムを制御することにより、Aβオリゴマーによる神経可塑性低下を抑制することが可能になることを示唆している。 病的状態における神経細胞の機能低下や変性におけるカルパインの役割を解明するためにカルパスタチン-過剰発現トランスジェニックマウスおよびカルパスタチン-ノックアウトマウスを作成した。カルパスタチンノックアウトマウスを、APPトランスジェニックマウスと交配したところ、約4,5ヶ月令という比較的早い時期に、嗅内野において神経細胞体および樹状突起の変性が確認された。また、海馬台におけるリン酸化タウのレベルが顕著に上昇した。アルツハイマー病における神経変性に至る主要制御過程にカルパイン-カルパスタチン系が関与する可能性が示された。
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