本研究は、アルツハイマー病発症の分子基盤であるアミロイドβ蛋白(Aβ)異常凝集のメカニズムをAβの構造変化獲得過程に焦点をあて解明することを目標とする。平成12年度は、本研究代表者らが初期アルツハイマー病脳内に見い出した特異なAβ分子であるGM1カングリオシド結合型Aβ(GM1-Aβ)の形成機構を詳細に検討した。検討にあたっては、cholesterol(CH)、sphingomyelin(SM)、GM1、phosphatidylcholine(PC)、さらにはphosphatidylserine(PS)を様々な組成で含む人工脂質二重膜(liposome)を作製するとともに、合成Aβを蛍光合成型であるdiethylaminocoumarin carbonyl group(DAC)標識した。その結果、AβはGM1を含むliposomeに特異的に結合することが確認された。また、GM1を含むliposomeにおいてGM1以外の脂質組成を変化させ検討を加えた結果、AβとGM1との結合はliposome内のCH濃度に大きく依存することが確認された。即ち、GM1が生物学的な膜内濃度で存在する場合においては、CH濃度が高い条件でAβはより多くGM1に結合することが確認された。さらに、このCH濃度依存性のGM1-Aβ形成の分子機構を明らかにすることを目的に、GM1を分子密度に依存して励起する特性をもつ薬剤(BODIPY)で標識し検討を加えた結果、高濃度のCHを含むliposome内でGM1は凝集して、所謂clusterを形成することが確認された。この事実はシナプス外膜のCH濃度が老化ラット脳において上昇しているという事実と総合し興味深いと考えた(以上、論文投稿済み)。また、liposome上で形成されたGM1-Aβが、先に本研究代表者らが想定したようなseeding作用を発揮し、可溶性Aβの凝集を促進するか否かを検討した結果、GM1-Aβは可溶性Aβの凝集を開始させることが、thioflavin Tを用いたkinetic studyで示されるとともに、本研究代表者らが作製した抗GM1-Aβ特異抗体によるAβ凝集抑制で確認された(以上、論文投稿準備中)。本研究はAβ凝集開始起点をターゲットとする薬剤開発の可能性を開くものとしてさらに発展させたいと考える。
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