アミロイドβ蛋白の構造変化ならびに凝集に関する分子細胞生物学的研究

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12210022
• 研究機関: 国立療養所中部病院(長寿医療研究センター)
• 研究代表者: 柳澤 勝彦 国立療養所中部病院(長寿医療研究センター), 痴呆疾患研究部, 部長 (10230260)
• 研究分担者: 松崎 勝巳 京都大学, 大学院・生命科学研究科, 助教授 (00201773)
• キーワード: アルツハイマー病 / アミロイドβ蛋白 / 老人斑 / GM1ガングリオシド / コレステロール / アポリポ蛋白E

研究概要

本研究は、アルツハイマー病発症基盤であるアミロイドβ蛋白(Aβ)異常凝集のメカニズムを、Aβの構造変化獲得過程に焦点をあて、分子レベルで解明することを目標とする。平成13年度は、12年度に引き続き、本研究代表者らが初期アルツハイマー病脳内に見い出した特異なAβ分子であるGM1ガングリオシド結合型Aβ(GM1-Aβ)の形成機構ならびにそのseed作用を詳細に検討した。その結果、GM1-Aβの形成、即ちAβとGM1との結合はGM1が存在する膜内のコレステロール濃度に依存すること、またこれはコレステロール濃度上昇に伴うGM1のクラスター形成に基づくことが示唆された。一方、GM1-Aβのseed作用について、GM1を含むliposomeを合成Aβ溶液に加え、その結果生じるAβ凝集を反応速度論的に解析することで検討した。その結果、GM1存在下でのAβ凝集は一次反応速度論モデルに従うこと、またこの反応はGM1との結合により誘導されるAβの構造変化を基礎とすることが抗GM1-Aβ抗体を用いた解析から明らかになった。以上、細胞膜内コレステロールの上昇を背景に、可溶性Aβが重合を開始する可能性が示唆された。本年度の研究においてはさらに、アルツハイマー病脳における神経細胞膜内コレステロールの変動の可能性を検討する為、アルツハイマー病発症の危険因子であるアポリポ蛋白E(apoE)の神経細胞膜コレステロール分布に対する影響を調べた。検討にあたっては、ヒト型apoE遺伝子をノックインしたマウス(三菱生命研 藤田博士との共同研究)を用い、シナプス膜を単離し、脂質二重膜内コレステロール分布を解析した。その結果、アルツハイマー病発症を促進する可能性が指摘されているapoE4を発現するマウスにおいては、シナプス膜外葉中のコレステロールがapoE3発現の場合に比して、約2倍増加することが確認された。これらの研究成果は、アルツハイマー病の危険因子としてのコレステロールの役割をAβ凝集促進との関係で議論する際、重要な知見であると考えられる。

研究成果

• [文献書誌] Sai X, (Yanagisawa K) et al.: "Endoplasmic reticulum stess-inducible protein, Herp, enhances presenilin-mediated generation of amyloid β-protein"J Biol Chem. (in press).
• [文献書誌] Hayashi H, (Yanagisawa K) et al.: "Cholesterol is increased in the exofacial leaflet of synaptic plasma membranes of human apolipoprotein E4 knock-in mice"Neuroreport. 13. 383-386 (2002)
• [文献書誌] Fan QW, (Yanagisawa K) et al.: "Cholesterol-dependent modulation of dendrite outgrowth and microtubule stability in cultured neurons"J Neurochem. 80. 178-190 (2002)
• [文献書誌] Kakio A, (Yanagisawa K, Matsuzaki K) et al.: "Cholesterol-dependent formation of GM1 ganglioside-bound amyloid β-protein, an endogenous seed for Alzheimer amyloid"J Biol Chem. 276. 24985-24990 (2001)
• [文献書誌] Michikawa M, (Yanagisawa K) et al.: "A novel action of Alzheimer's amyloid β-protein (Aβ) : oligomeric Aβ promotes lipid release"J Neurosci. 21(18). 7226-7235 (2001)
• [文献書誌] Kawamura Y, (Yanagisawa K) et al: "itory effect of a presenilin 1 mutation on the Wnt signalling pathway by cement of b-catenin phosphorylation"Eur J Biochem. 268. 3036-3041 (2001)