アルツハイマー病(AD)脳内におけるAβ重合はGM1ガングリオシド(GM1)に結合したAβ(GAβ)のseed作用を基礎とするとの仮説をもとに研究を進めた。本研究期間内の成果は以下の3点に要約される。 (1)GA形成の生物学的基礎の解明 GAβ形成が促進される神経生物学的基盤を、AD発症危険因子である老化ならびにアポリポ蛋白E4発現の神経細胞膜脂質組成に与える影響の視点で検討した。その結果、両因子はシナプス脂質二重膜内のコレステロール分布を変化させ、外葉中のコレステロール含量を約2倍増加させることが確認された。この事実と先の我々の研究結果と考えあわせ、Aβ結合を誘導するGM1クラスターの形成がこれらの因子により促進される可能性が示唆された。また、アポリポ蛋白E4遺伝子をノックインした老齢マウス脳シナプス膜より調整した膜ドメイン(ラフト)内で、可溶性Aβの重合を促進する足るGM1量の増加が生じていることを確認した。以上の結果は、これまでAβ病理との関連が明らかでなかったAD発症危険因子の役割に新たな視点を提供した。 (2)脳内GAβの捕捉 抗GAβモノクローナル1抗体(4396C)を用いた免疫組織学的検索によりAD脳ならびに老齢サル脳の神経細胞内にGAβを検出した。また老齢サル大脳皮質からは4396CによりGAβが免疫沈降されることも確認され、GAβは脳内で形成される病的産物であると結論した。 (3)脳領域特異的Aβ蓄積におけるGM1の役割の検討 GAβ形成の病的意義をさらに明らかにすることを目的に、脳領域特異的Aβ積に焦点をあて、遺伝的変異型ARを用いてin vitro実験を行った。その結果、22番目のアミノ酸置換を伴い、脳実質に選択的沈着を示すことが知られているArctic型Aβ(E22G)はGM1により著しい重合誘導を受けることが確認された。一方、同一部位で別種のアミノ酸に置換され、血管壁に沈着するDutch型Aβ(E22Q)はGM1による重合誘導を受けないことが確認された。以上の結果は、脳内の領域特異的Aβ沈着にガングリオシドが重要な役割を果たすことを示すものと考えられた。
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