研究概要 |
上側頭溝前部領域における情報処理の解明には,この領域のニューロンの「顔」,「視線」および「声」に対する反応性の詳細な解析が必要不可欠である。われわれは「顔」(「視線」を含む。)および「声」に基づく個体同定を行っているサルの上側頭溝前部領域ニューロンの「顔」,「視線」および「声」に対する反応性の系統的な解析を計画している。本年度,われわれは以下の実験結果を得ている。 1.「顔」と「視線」の向きがサル上側頭溝前部領域「顔」ニューロン応答に及ぼす影響: 先行研究でわれわれは「顔」に基づく個体同定を要求する遅延見本合わせ課題(I-DMS課題)遂行中のサル上側頭溝前部領域から「顔」応答ニューロンを記録している。I-DMS課題では,サルが固視点に固視した後,見本「顔」刺激が呈示され,遅延期間の後,テスト「顔」刺激が呈示される。これら「顔」刺激は,サルにとって既知または新奇な人物の「顔」画像であり,「顔」や「視線」の向きが異なっている。サルは見本刺激と同一人物のテスト「顔」刺激が呈示された場合,レバー押しを行うと報酬が与えられる。本研究ではさらに,I-DMS課題において,「顔」と「視線」の向きが独立に変化する新しい刺激セットを使用し,これらの刺激に対するサル上側頭溝前部領域「顔」応答ニューロンの反応性を解析した。実験の結果,上側頭溝前部領域「顔」応答ニューロンの「顔」の向きに対する選択性は,「視線」の方向に依存して増強することが示された。例えば,斜め45度の向きの「顔」に対する選択的ニューロン応答はeye contactのある「視線」条件下で有意に増強した。この結果は上側頭溝前部領域ニューロンにおける「顔」と「視線」の向きの相互作用を具体的に示している。(この結果は本年度北米神経科学会議で発表を予定している。) 2.「顔」と「声」に基づく個体同定を要求する遅延見本合せ課題(I-DMS-FV課題)における行動解析: 先行研究のI-DMS課題パラダイムを,視覚刺激(「顔」と「視線」)と聴覚刺激(「声」)の両方を使用するように改変を加えた,新たな認知課題,I-DMS-FV課題をサルに訓練した。この認知課題では,サルは「顔」や「声」に基づいた既知の人物の同定が要求される。サルはこのような認知課題を十分獲得可能であり,現在,行動解析を行っている。
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