神経回路の再編成は、神経繊維の伸長と退行を伴なった新たな結合パターンによるシナプス形成を意味する。この一連の変化は、発生過程で展開される遺伝的プログラムに基づく機構と神経活動に依存した可塑的機構により制御されるが、いずれの機構も細胞内においては共通したシグナル経路を用いていることが予想される。本研究では、成長円錐ないしシナプス末端で機能することが示唆されたTrioの解析を通して神経回路の再編成を制御する機構を理解することを目的とする。特に、神経繊維の伸長と退行という対立する現象が、発生プログラムにより、あるいは環境に応じてどのようなシグナル経路のバランスに基づいて制御されているのかは極めて興味深い問題である。 我々は今までに、細胞の形態や動きを制御するRhoファミリーGTPaseのシグナル経路に着目し、その活性化因子である2種類のグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)、SIFとTrioをショウジョウバエで同定し解析を行ってきた。Trioは軸索伸長を制御し、またシナプス末端にも局在することから発生後のシナプスの維持ないし動的変化を制御することが示唆されている。さらにTrioは、RhoファミリーGTPaseを活性化するDHドメインを2個持ち、またヒトTrioではそのうちDH1はRac1をDH2はRhoAを活性化することが示されていることから、Trioは1種の分子で異なる2種のシグナル経路を共役的に制御することにより神経繊維ないしシナプスの伸長と退行を制御している可能性がある。現在、2個のDHドメインのうちそれぞれ1つずつに変異を持つトランスジェニック系統を作製し、発生過程で神経再編成を示すキノコ体での神経繊維形成パターンを解析している。
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