研究概要 |
化学発がんのイニシエーション段階では,生体内の異物代謝酵素による化学物質の代謝的活性化と解毒化反応が関わり,その両者のバランスが個体の発がんリスクを左右すると予想される.本研究では,1)環境中の変異原物質がヒトの異物代謝酵素で実際に活性化されるか否か2)ヒトの異物代謝酵素活性の個体差が発がんリスクの個体差と直接関連するか否か3)これら酵素の発現量を制御する発現制御機構の未解明の問題の解決を目的としている.本年度は,1)について,がん原物質を代謝的に活性化するヒトの異物代謝酵素チトクロームP450分子種の1つであるCYP1B1を発現する二種類のサルモネラ菌(TA1538およびYG7108)株の構築に成功し,それぞれ,Trp-P-1,煙草特異的ニトロソアミンであるNNKなどの変異原・がん原物質の高感度な検出系として有用であることを明らかにした.また,発がん物質の解毒化にかかわるヒトUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)の1分子種(UGT1A1)について,活性を有する形でサルモネラ菌に発現させることにはじめて成功した.さらに,2)については,日本人を用いたケース・コントロール研究で3種類のがんを検討したところ,CYP2A6の遺伝的多型が肺がんの感受性と関連することを明らかにし,CYP2A6遺伝子の欠損者では,肺がんリスクが有意に低い(オッズ比0.25,95%信頼区間,0.08-0.83)ことを明らかにした.最後に,3)については,焼け焦げに含まれるがん原性ヘテロサイクリックアミン類の代謝的活性化に重要な役割を果たしているCYP1A2について,申請者らはその発現を制御する領域を見出した.今年度は,この領域に直接結合するタンパウ質を常用されるクロマトグラフィーおよび,エンハンサー配列を持つオリゴヌクレオチドによるDNAアフィニティークロマトグラフィーを用いることにより精製することに成功した.得られた蛋白質の分子量は約60kDaであることが明らかとなった.
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