研究概要 |
化学物質による発がん過程の最初のステップであるイニシエーションの段階では,生体内に存在する異物代謝酵素による化学物質の代謝的活性化と解毒化反応が関わり,その両者のバランスが個体の発がんリスクを左右すると予想される.本研究では,化学物質の代謝的活性化や解毒化に関わる酵素の性質と量が化学発がんに対するリスクを決定する因子であることを確証し,その定量的評価を行い,その結果として化学発がんに対するリスクの個人差を解明することを目的とした.日本人喫煙者の肺がんリスクは,CYP2A6遺伝子全欠損者において有意に低いことに加え,新たに発見したCYP2A6の酵素活性の低下をもたらす一塩基置換体(CYP2A6*7)も,肺がんリスクの低下に関与することを明らかにした.これらのことから,CYP2A6の触媒機能が喫煙者の肺がんリスクに寄与していることが推察された.噛みタバコに起因すると推察される口腔がんにかかりやすいヒトも,喫煙者の肺がんと同様に,CYP2A6の遺伝子多型によって影響を受けていることが示唆された.がん原性物質の代謝的活性化に関与するヒトCYPのバクテリアを用いる発現系を構築し,緑茶成分カテキンや食品由来の含硫黄化合物による活性化代謝の阻害の可能性を示した.またヘテロサイクリックアミンを活性化するCYP1A2のエンハンサー結合因子とマウスAhリセプターリプレッサー遺伝子の構造を決定した.この研究と関連した仕事として、マウスAhリセプターリプレッサー遺伝子の構造を決定し、転写調節領域を解析した。遺伝子は60kbの大きさで、11エクソンに分かれていた。TATAボックスはなく、プロモーター領域には3つのXRE配列のほか、GCボックス、NF-kB結合配列が存在することを見出した。
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