転写因子C/EBPαは血液細胞において骨髄球前駆細胞から好中球の分化の過程において発現し、好中球の分化に必須な転写因子である。C/EBPαは好中球分化において増殖抑制と分化促進の二つの生物作用を同時に発揮するものと考えられる。これらの所見はC/EBPαが骨髄性白血病の病態形成に関わっている可能性を強く示唆するものであるが、申請者の共同研究者であるハーバード大学DG Tenen博士らは急性骨髄性白血病FAB分類上M2の症例中、染色体異常の認められない例の25%でC/EBPα遺伝子の一方に変異が認められることを明らかにした。これらの遺伝子変異の多くはN末端部分に存在し、変異より下流の翻訳開始点から優位に翻訳されるため、転写活性化ドメインを一部欠損した蛋白が産生される。この短い遺伝子産物は転写活性化能を持たず、in vitroの系においてドミナントネガティブに機能することが示されている。申請者らはこの変異型C/EBPαがプライマリーの血液細胞においてどのような生物学的活性を示すのか解析を行っているが、これまでにレトロウイルスを用いて遺伝子導入したヒトCD34陽性血液幹細胞のin vitroの解析から、変異型C/EBPαがヒト血液細胞の好中球分化を明らかに遅らせるとともに、増殖能の亢進と長期の増殖を支持することが明らかとなった。この現象は好中球に特異的であり、変異型C/EBPαは内在性の野生型C/EBPαの機能を抑制しているものと考えられる。そこで今後は、これらドミナントネガティブに機能するC/EBPα変異遺伝子の機能をin vivoで解析し、これらの遺伝子変異が急性骨髄性白血病における骨髄球の分化障害や自律性増殖にどのように関与しているのかを明らかにしていきたい。
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