これまでに我々は、テロメアDNA・クロマチンがゲノムの中でも複製が困難な座位のひとつであることを見出してきた。生体内にあるがん細胞は、栄養の枯渇、低酸素、抗腫瘍剤などのさまざまなストレスにさらされ、その結果、DNA複製反応の進行も障害されるものと想像される。従って、ゲノムで複製されにくい領域は、複製フォークの進行が停止し、二本鎖DNA切断が惹起される結果、染色体異常を引き起こす原因となる可能性がある。この仮説を検証するために、DNA複製に必須なDNA合成酵素、DNAポリメラーゼαの温度感受性株であるマウスFM3A細胞株由来の亜株tsFT20を用いた。既にtsFT20の温度感受性ポリメラーゼαは、33度で機能をもち細胞は正常の増殖を行うことができるが、39度では完全に失活して細胞は増殖せず、多彩な染色体異常を呈しながら死滅することが知られている。我々は、まず、38度ではポリメラーゼ機能は低下はしているものの、時間をかけて複製を行うことで、細胞はゆっくりと増殖する状態であることを示し、これを半許容温度として設定した。半許容温度でtsFT20を培養すると、1週間程度で一本鎖G鎖の伸長を示し、続けて、テロメアDNA全体の進行的な伸長を示すことを見出した。このことは、DNAポリメラーゼα機能とテロメア維持機構が密接に関連していることを示している。さらに、興味深いことには、数週間以上半許容温度で培養したtsFT20細胞は、対照細胞に比べて、テロメア機能欠損からおこるテロメア融合を示すと考えられているRobertson融合染色体異常が高頻度で認められた。以上のことより、テロメアは、複製異常をもたらすストレスに対して最も脆弱な部位の一つであることが示された。
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